大木亜希子さんの小説「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」(祥伝社文庫)が映画化され、11月3日から全国で公開される。自分の幸せを他人と見比べてしまいがちな一人のアラサー(30代前後)女性の観点から、華やかな東京に暮らし、SNS全盛の時代に生きるがゆえの「プチ孤独」を描く。羨望(せんぼう)とこだわりにとらわれていた主人公の心がほぐれ、「本来の自分」を取り戻すまでの印象的な物語だ。
人生の大先輩世代と、まさかのシェアハウス生活
物語は、元アイドルの「安希子」と、人生の大先輩にあたる56歳の会社員「ササポン」との一見奇妙なシェアハウス生活を軸に展開する。アイドルをやめて会社員となった後も、芸能人時代の習慣や思考を引きずり、SNSで目にする友人・知人の華やかな生活に心を乱される安希子。負けじと自らも「見栄え」にこだわった生活を送るが、仕事も恋愛も順調にはいかず、収入も心細い状態が続く日々。精神的に追い詰められていく安希子を心配した友人から「あなたには話し相手が必要だ」と勧められたのが、都内の一戸建てに暮らす「ササポン」宅での間借り生活だった――。
2012年までアイドルグループ「SDN48」に身を置き、同グループ解散後はウェブメディアで記者として働き始めた大木さん自身の「ほぼ実体験」という作品世界だ。原作小説は大きな反響を呼び、漫画化(全3巻)もされている。
安希子役は、俳優で、アイドルグループ「乃木坂46」元メンバーでもある深川麻衣さん、ササポン役は多くの映画やドラマで活躍するベテランの井浦新さんが演じる。気鋭の穐山茉由監督がメガホンをとった。
仕事、恋愛、結婚…価値観は多様化したけれど
仕事、恋愛、結婚。価値観が多様化し、かつて社会を覆っていた固定観念が解けつつあることを大木さんは歓迎する。だが、安希子がそうだったように、「『幸せ』を他人と比べてしまう心の動きは誰にでもある」と大木さんはいう。他人の発信する「幸せ」が嫌でも目に入ってくるSNS時代には、SNS時代特有の生きづらさと孤立感がある、と大木さんは考える。大木さんはそれを「プチ孤独」と呼ぶ。
ときに、気の置けない友人のしゃべりのようにも、俗世を超越した仏僧の箴言(しん・げん)のようにも響くササポンの言葉。映画の中で安希子は、そんなササポンとの日常会話を通じてプチ孤独を癒やし、「本当に生きたい人生」と向き合っていく。
アラサー世代の女性へ「救い」のメッセージを送りたいという思いを出発点に著されたという原作小説だが、映画版をみた大木さんは「同時代を生きる全ての方々に届けたいと思える作品になった」と感激の面持ちで感想を語った。
安希子役を演じる深川さんも「私自身もアイドルグループに身を置き、日々の競争の中で自分と周りを見比べていた経験があるからこそ、安希子の心情は胸に迫るものがある」と語り、「人は人の言葉によって変われる、救われるというメッセージを表現できていたらうれしい」と話した。
上映館や上映期間などは映画の公式サイト(https://tsundoru-movie.jp/)で。(阪本輝昭)
映画のあらすじ
元アイドルの安希子(深川麻…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル